【医師との会話】糸リフト後のひきつれが戻りません。どうしたらいいですか? 更新日時 2023/12/27 12:32
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糸が溶けてもひきつれがなくならないことがある
冒頭のモデルの会話のようなご相談は、時々ですがやはりあります。話を聞くとカウンセリングで煽るだけ煽った期待に見合う効果も得られなかったばかりか、ひきつれの後遺症まで残った、ということで悔しい情けない気持ちで泣き出す方もいらっしゃいました。こういうことが現実にはたくさん起こっています。「カウンセラーが言っていたようなリフト効果は全然ありませんでした。結果的にドブ金でしたけどいい勉強したと気持ちを切り替えました。」というような経験をされた方はさらにケタ違いに多いはずですが、後遺症がなければ切り替えもできるというものです。
それでは改めて、本コラムでまとめてお伝えしようと思う点は以下の4点です。
1.長く残るひきつれの正体
2.糸リフト後にひきつれが長く残るときの対策とその限界
3.糸リフトでひきつれが起きる原因
4.効果的でリスクのない糸リフトは存在するのか
これから糸リフトを受けようかどうか迷っている方は、本コラムに加えて高澤の過去のコラムが参考になると思います。きっと安全で効果的な美容医療を利用するために役立つと思います。
(参考:【引っ張ってはいけない】糸リフトのFAQs8選 )
長く残るひきつれの正体は瘢痕組織
糸リフト後にひきつれが起きて、長く残ってしまうというケースは実際にあります。「溶ける糸だから、糸が溶けるとひきつれも消えます。」とカウンセラーや執刀医が言ったとしても、糸が溶けるはずの時期を過ぎてもずっとひきつれが残ってしまっているようなケースです。ほとんどの場合は「先生の言った通り2か月くらいで糸が溶けてひきつれはなくなりました。」となるのですが、「5年も経ったのでもうあんまりわからなくなってしまったけど術後1年くらい経つまでめちゃくちゃ悩みました。」という方もいらっしゃいますので、程度や経過についても様々です。このように糸が溶けた後もひきつれが残ったりするのは、ひきつれの原因が糸の存在によるものから、糸が溶けるときの炎症で作られる瘢痕によるものへと変化したからです。
糸リフト後にひきつれが起きたときの対策とその限界
では実際に6ヶ月を超えて糸が溶けたはずの時期にひきつれが残ってしまっているとき、どういう改善方法があるのか、ということについて説明します。
ステロイドを打つ:効果よりリスクの方が高そう
瘢痕が原因ならステロイドを打てばよいのでは?という声が聞こえてきそうですが、実際に試したことはありません。おそらく硬さが取れるより先に周辺の正常組織が萎縮して状況を悪化させる要因になる心配があるからです。
ヒアルロン酸注入:トライしてだめなら溶かせる
ヒアルロン酸を瘢痕と皮膚の間に少し入れることで、ひきつれを隠すようにできる場合があります。これが効果的かどうかは、触ってみるとわかることが多いです。ひきつれ部分を指でつまんでひきつれが目立たなくなったり消えたりする場合にはかなり改善する可能性があります。つまんでもひきつれが思うように消えない場合は、ヒアルロン酸を注入するとひきつれの周辺ばかり膨らんでしまって逆効果になる可能性もあるので注意が必要です。いずれにしても、ヒアルロン酸の注入は効果が良くなければ溶解することができるため、無効あるいは少々のリスクがあったとしてもそれを承知でトライすることができるという意味で重宝します。
瘢痕周辺の物理的な剥離:瘢痕の深層だけならお勧めできる
糸の瘢痕が周辺へ癒着して目立つという状況を改善するために、少し太めの針などを用いて瘢痕を部分的に切離するような剥離操作をする場合があります。これは効果的な場合もありますが、浅い層で行うと出血や腫れが目立ちやすいだけでなく、逆に切離したところが再び炎症で癒着してしまった結果、余計に広い面積がへこんでしまったりすることもあるので、糸の瘢痕の深層のみで行うようにするほうがリスクは少ないと思います。
積極的無治療:状況によってはこれが最善
傷跡に対して「日にち薬」という言葉があるとおり、年単位の時間の経過とともに瘢痕の硬さが取れてきて、ひきつれが改善することは期待できます。程度にもよりますが、リスクの高い改善案を様々試すより、瘢痕を目立たないように過ごす工夫をして過ごすことが最善である可能性もあります。ただし「○○年経てばなくなる」というような保証があるわけではありません。
糸リフトでひきつれが起きる原因
糸が溶けるはずの6か月後以降にもひきつれが残ってしまうのは糸を入れる層が浅すぎる、または入れる層が浅かったり深かったり不安定だからです。ここではそういったことが起こる原因について解説します。
まず、糸を入れる「層」について理解が必要です。皮下組織にはある程度の厚みがあるので、浅い層から深い層のどの層に糸を入れるべきなのか、ということです。その理解の上で、なぜひきつれが残るような浅すぎる層への糸の挿入をしてしまうのか、という点について順になるべくわかりやすいように解説していきます。
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それでは、糸リフトにおいて浅い層と深い層の違いから説明しましょう。
まず深い層というのは骨や筋肉に固定されているので、垂れ下がるような動きをあまりしていません。つまりたるみの直接の原因ではないので糸を入れる層としては不適切です。実際にその層に糸を入れた場合の感触は糸を入れて引っ張ってもほとんど動かないくらいで、上にも下にも動きませんし、つまりその層にたるみの原因はないということがわかります。
そうしたあまり動かない深い層から少しずつ浅い層になると少しずつ動きが大きくなって、一番浅い層になると、動く距離が最大になります。その浅い層に糸を入れて引っ掛けて引っ張ると、すごく肌が上がるような動きをします。そうすると、効果が高いようなイメージに思われるのですが、これが「引き上げの効果」に当たります。当然ながらこの効果は結局1ヶ月も経たずに失われます。それだけではありません。さらにまずいことに、肝心の「固定の効果」についてもケチがつく可能性があります。というのも、浅い層に入れた糸でもちゃんと瘢痕はできるのですが浅すぎる層で硬くなっても、深い層から離れすぎて接続していない場合、骨格に対する「固定の効果」がちゃんと得られにくくなります。つまり、浅すぎる層も糸を入れる層としては不適切です。
残念なことに、こういった「引き上げの効果」を声高にアピールする医師やクリニックは、有言実行とばかりに積極的に浅い層に糸を入れて、その場限りだと知りつつ引き上げの効果を良く見せようとすることがあります。その結果は当然、ひきつれのリスクが高いわりに深い層との接続も少なくて肝心の固定の効果すらもイマイチです。また、糸の入っている層が浅かったり深かったり不安定な場合は、1本の糸の途中で一部が筋肉に接続して一部が皮膚に接続してしまったりして、これは表情を動かすときにひきつれが出るという症状に繋がります。
結論としては、糸をいれる層として適切だと考えられるのは、全く動いていない深い層でもなく、そこから完全に離れてしまうような浅い層でもありません。その間の中間の層にあると考えていいと思います。
効果的でリスクのない糸リフトは存在するのか
ここまでかなりマニアックな内容にふれてきましたが、まとめると、浅すぎる層は「引き上げの効果」は大きく見せることができても肝心の「固定の効果」がイマイチで、しかもひきつれのリスクが高くなります。深すぎる層はそもそも動いていないところなので糸を入れる意味もないばかりか、糸が筋肉に触れていると術後強い違和感の原因になります。
ですので浅すぎず深すぎない層に、一定の深さをキープしながら糸を挿入することが大事なのですが、ここは経験と手先の器用さと集中力など、医師の違いが出やすいところかもしれません。結局、糸の素材・形状・挿入するデザイン・挿入する層の深さに至るまで、糸リフトに関する総合的な知識と経験を統合することで、効果的でリスクの少ない糸リフトが実現できると思います。
(参考:【糸リフトFAQ】Vol.6、【糸リフトFAQ】Vol.7、【糸リフトFAQ】Vol.8 )
おまけ
それでは最後に、ここまでマニアックな内容を最後まで読んでいただくような酔狂で研究熱心な美容外科医の方もいらっしゃるかと思いますので、高澤が目安にしている糸リフトの糸を挿入する層が適正かどうか判断するときのコツを少し書いておきます。糸を入れて軽く引っ張ってみたときに、引っ張る距離よりも皮膚が動く距離が短いような、そういう感触がある層だと、いい感じな気がしています。軽く引っ張ったときにいびつなひきつれが出たり引っ張った距離と同じだけ皮膚が動くような感触の時は浅すぎます。逆に引っ張ったときに全く動かないときは深すぎますのでそういったときは一度抜いてしまって再挿入します。参考になれば幸いです。
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