Columnコラム

消えない内出血の謎 更新日時 2024/04/23 11:02

読む時間の目安 8分~10分

注意:本コラムでの「消えない内出血」は、健康な方が美容医療などで注射をしたところに起きた内出血による「青あざ」がなかなか消えない、という状況を想定しています。直接の原因がわからないのに青あざができて長く消えないなどの場合は、血管や血液の病気などの可能性について内科や皮膚科の受診が必要です。

患者A

先生、内出血の跡が消えないんです。どうしたらいいでしょうか。

医師

思っていたより内出血が多いと不安になりますよね。でも長くても2週間もすればきっと消えますから、それまでの辛抱ですね。

患者A

いえ先生、もう3か月も経つんです。ここです、ほら。小さいんですけど、見えますか?

医師

えぇ!? 3か月ですか? あ、これは失礼、非常にレアなことなので、思わず変な声を出してしまいました。

患者A

これって何なんでしょうか。内出血が消えないなんてこと、ありますか?

医師

そうですね、みた感じは針跡の炎症後の色素沈着ではなさそうですし、色が黒っぽいので内出血の血の成分がそこに固まっているように見えますね。3か月経つということは、いわゆる「血腫」ができていて、分解にすごく時間がかかるのだと思います。

患者A

レーザーとかで早く消えたりはしないですか?

医師

あまり期待はできないと思います。それどころかレーザー等の照射で余計な炎症を起こすと、今度はメラニンの色素沈着のリスクがありますので、レーザー等はむしろ状況を悪くするだけだと思います。

患者A

じゃあほかに何か方法はありますか?

医師

ええ、基本的には時間とともに血腫が小さくなるはずですが、軽く温めたりヒルドイドを塗るなど血流を良くすることで代謝を早めることができると思います。また、血腫がすごく大きいなど状況によっては生理食塩水などを局所注射してしっかり揉んであげることで血腫をほぐしてあげると、代謝が進みやすくするなるかもしれません。

患者A

温めたりヒルドイド塗ったりはもうやっていて、それでもなかなか消えていかないので、その注射して揉むというのをやってみたいのですが、何かリスクはありますか?

医師

はい、これは注射して行いますので、これが原因で再び出血してしまうと状況はさらに複雑になります。結果的に逆効果になる可能性はゼロではありません。ただしそうは言っても、そういうリスク自体を想定済みで対策しますので、局所麻酔で一時的に血管を締めたり、出血点に直接鋭針を刺さないようにしてカニュレを使うなど、予防策を凝らして行います。悪化する可能性というのはあくまで万が一の可能性、という意味ですね。

患者A

そうなんですね。それでもちょっと、なんか悪化する可能性もゼロじゃないなら怖いし、このくらいのものならメイクでカバーできるので、いったんこのまま様子を見ることにします。

医師

わかりました。いつでもまたご相談ください。

「消えない内出血」はレアだが都市伝説ではない

 美容医療において内出血の存在は、ともすると「メイクでカバーしていればいずれ消えるから大丈夫」と軽視しがちですが、長く診療をしていると、内出血のあとの深い青色のスポットがなかなか消えない、という方にごくまれに出会います。私自身が一年に注射で刺す数は数万の数に及びますが、最初のころは、内出血のあとが消えない症例なんて経験もしたことがなかったですし、真剣に考えてみたこともなかったです。ところがここ数年、昔なら1年に1回あるかないかくらいのイメージだった「(なかなか)消えない内出血」の症例を何件か続けて経験して、そういった方への聞き取りを通じていくつかわかったことがありますのでここで共有したいと思います。

最初に必ず区別すること

 針を刺したあとにしばらく残ることがあるものパターンとしては、

➀炎症による赤みやふくらみ

②炎症後の色素沈着(メラニン色素)

③血腫による色素沈着(ヘモグロビン色素)

などがあります。これらは慣れた医師ならほとんどの場合診て区別がつきます。そしてこの区別が大事な理由は、それぞれに対して改善するための方法が異なるからです。

   ➀炎症による赤みやふくらみ

 注射後の赤みやふくらみは、通常の経過でもあります。通常は数日以内に消えて見えなくなりますが、注射後あまり時間がたたないうちに保湿やメイクなどをすると、成分が針孔に浸みることで炎症を起こす場合があり、場合によっては炎症が長引く可能性があります。そうは言ってもそれくらいなら1週間以上長引くことはほとんどありません。もし1週間以上続くような場合は、感染や注入した成分によるアレルギー反応の可能性もあるので、担当医にご相談ください。

   ②炎症後の色素沈着(メラニン色素)

 ➀のような炎症が少し長く続いたあと、赤みが引いた後にシミのようなものが残ってしまった場合、炎症後の色素沈着の可能性が高いです。気になる場合にレーザーの治療を考える方が多いですが、炎症後の色素沈着に関しては時間とともに薄くなることが期待できるばかりか、余計な刺激によって悪化する可能性まであるため、なるべく丁寧に保湿して改善を待つなどの対応がおすすめです。

   ③血腫による色素沈着(ヘモグロビン色素)

 ➀、②の注射の跡とは根本的に違って、出血した血液の成分自体がかたまって残っている状態です。ですので色はかなり黒に近い紫のような色のことが多いです。レーザー等の治療はまずほとんど効果はありませんし、余計な炎症が起きることで逆に炎症後の色素沈着につながるため、自然に代謝され分解するのを待つのが賢明です。それを加速する目的で温かくしたり水分を多めに摂って血流を増やすことやヒルドイドを塗るなどの利用はお勧めです。また、血腫をほぐして代謝されやすい状態にすることを目的に生理食塩水を注入して揉みこむなどの方法をとることもありますが、効果はまちまちで、万が一再出血すると悪化する可能性もあるため、処置は特に慎重に行う必要があります。

血腫の観察からの考察

 今回のメインテーマの「消えない内出血」の血腫については、通常の内出血の場合におこることはありません。内出血は周辺の脂肪組織などの柔らかい組織を目指してしみ込むように広がることで薄まっていき代謝されやすくなります。そうして時間とともに自然に代謝されて消えていくからです。ですがまれに出血部位から広がることができずに溜まった状態になってかたまってしまうケースがあります。

 今までに観察した中からいくつかのパターンを挙げておくと、

   ➀ヒアルロン酸など、フィラー注入時の出血

 フィラーの注入時の出血は、血液が注入されたフィラーに吸収されてフィラーごと固まってしまうことがあります。注入部位が皮膚が薄い目の下などで、ごく浅い場所にフィラーが漏れ出てきたときなどに、内出血がしみ込んで固まったものが浅黒いしこりとして透けて見えることがあります。フィラーがヒアルロン酸の場合には、いったん溶解することで改善しやすくなります。それ以外の場合には、後述の②のパターンに準じて対応を考えます。

   ②脂肪注入、FGF注射、その他の治療後

 脂肪注入後やFGF注射後などの方の場合は、程度に差はありますが、皮下に通常組織よりも硬い瘢痕組織を残しています。そういった組織内で出血があった場合、内出血が広がらずに固まってしまうことがあります。

 実際にこういう組織は、例えると「水はけが悪い」イメージで、脂肪溶解の注射や局所麻酔の注射(どちらもほぼ水)ですら、数分から数十分の間硬いしこりのように触れるほど皮下の物質の拡散が制限されていたりします。そういう風に物質の拡散が起こりにくい組織内で出血があると、血腫が小さく固まってしまうというわけです。そういう場合には、カニュレなどで優しく生理食塩水などを含ませてよく揉みこむなどして血腫をほぐしておくと改善が早まる可能性があると思いますが、そういう注射による処置を入念に繰り返すと新たな出血になることも心配ですし、そうでなくてもそういう硬さのある組織は周辺の正常な組織との境界線が目立ちやすいので、刺激して腫れることで硬さが強調されるような状況になるのも不自然に見えてしまうので改善のための処置が必ずしもいい結果だけとは限らないことに留意しないといけません。

  美容医療が普及して多くの方がそのメリットを享受している時代ではありますが、ここ数年で「内出血が消えないけれどもどうしたらいいか」という相談が増えているのは、目の下の手術時に目の下から頬にかけての脂肪注入を気軽に行うようになっていることと無関係ではないと思います。だからといって、脂肪注入を受けるべきではないと言いたいわけではありませんが、それが本当に必要なのかどうか、親身に教えてくれる医療機関と医師に相談することが大事だと思います。

 

 最後にもう一度繰り返しになりますが、コラム冒頭にも同じ注意を書いたように、ここでいう「消えない内出血」は、健康な方が美容医療などで注射をしたところに起きた内出血による「青あざ」がなかなか消えないという状況を想定しています。直接の原因がわからないのに青あざができて長く消えないなどの場合は、血管や血液の病気などの可能性について内科や皮膚科の受診が必要です。また、注射後の針の刺入部が赤く炎症を起こしてその後点状の色素沈着になっているケースなどは、ここで扱う「消えない内出血」とは区別しなければなりません。治療後の跡が気になる場合は自己判断で行動せず信頼できる医療機関で相談するようにしましょう。

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